I-Pi SMARC開発キットには多くのメリットがありますが、特に比較的低価格であるというのは特筆に値します。これは、プロトタイピングに使用したいと考える技術者が少なくない1つの理由です。正しい表現であるかどうかは別にして、別の重要な特長は、ビギナーから専門家までのあらゆるレベルの技術者にとって魅力的であるということです。
ビギナーはIoT(Internet of Things)やRaspberry PiやArduinoなどの開発キットの普及、およびオープンソースというその性質のために、この種のキットを非常に歓迎します。そのコードは、技術者の作業のベースとなっていて、すべてのプラグイン・デバイス、センサー、アクチュエータなど含むほぼすべてのアプリケーションで使用できます。
こうしたプロジェクトに参入する技術者が増えるにつれ、ツール、ソフトウェア、キット自体の堅牢性が向上しているので、キットは最も経験豊富な設計者にとっても魅力的なものになっています。現在、設計の大半はユビキタスな開発キットから始まります。Raspberry Piに限定すると、今年の初めまでに5000万台以上のキットが市場に出荷され、10種類の異なるモデルが利用できるようになると見込まれています。
製造業者が開発キットを好む理由の1つは、エンジニアは職場と家庭の両方でキットを使用する傾向があることを知っているからです。実際、エンジニアは自宅で周辺機器やセンサーの実験を行い、職場では製品となる可能性のあるプロフェッショナル仕様のプロトタイプバージョンの開発を行います。
コンシューマ製品に関する問題
自家製の製品を商業製品に変えるこのプロセスには思わぬ落とし穴が隠れています。その1つの問題は求められる温度範囲です。エンジニアの家の室温が+23℃の上下10度の範囲を超えることはあまりないはずです。しかし、プロフェッショナル製品はそれでは済まされません。衝撃や振動の問題にも対処する必要があります。エンジニアは家のデバイスがダクトテープでしっかりと固定されることを知っていますが、最終製品の出荷ではダクトテープは使えません。
検討を必要とする別の問題は部品の交換です。経験豊富なエンジニアは、特定の部品は交換しても弊害がない(または、少ない)ことを知っていますが、特に医療、産業、軍事用途では、プロトタイプ段階を通過した製品の部品交換は許可されません。設計の確定後は、いかなる変更も許されないのです。
エンジニアは市販されている産業用開発キットの種類は選択できますが、行える事柄、使用できるソフトウェア、開発または購入できる周辺機器の種類はかなり制限されます。また、特に汎用入出力(GPIO)ピン、パルス幅変調器(PWM)機能、アナログ・デジタル・コンバータ(ADC)、デジタル・アナログ・コンバータ(DAC)、およびI2C、SPI、UARTなどの通信機能の設計では、それぞれ異なるプロトコルまたはインタフェースを使用しなければなりません。
ハードウェア抽象化レイヤー
経験豊富な設計者が通常理解している用語の中に、ハードウェア抽象化レイヤー(HAL)と
RAA(図1)があります。HALは、コンピュータの物理的ハードウェアとソフトウェアの間に存在する、ソフトウェアで実装した抽象化レイヤーです。HALの目的は、ハードウェアの差異をオペレーティングシステムから隠蔽することです。これにより、ハードウェアに変更があっても、オペレーティングシステムのコードをほとんど変更する必要がなくなります。